今回の公演も幸いにして2回観に行くことができました。
そこで,夜会の終わった今だからこそ,感想を書いてみようかと思います。
今回の夜会はタイトルからして前回「vol.15」の再演であることは分かりました。
前回の夜会は内容の「理解しづらさ」では屈指の夜会だったように思います。パッと見ではなんのことか分からず,意味を考えてるうちに終わってしまい楽しめなかった,なんて声も聞かれました。
確かにパンフレットにも前書きやあらすじは書いておらず,「安寿と厨子王のその後の物語」とだけ。森鴎外の「山椒大夫」自体を読んでいる人も少ないであろう昨今,さらにその後の物語と言われてもわかりにくさが先行してしまったのも仕方ないかもしれません。
そこで今回の「夜会」ではどのように変えてきたのかが興味津々でした。
結果として,「24時着0時発」と「24時着00時発」との差とほぼ同じ,いやそれよりも差
異は少なかったのではないでしょうか。
細かな演出の違いはあるんですが,ストーリーそして曲目は全くといっていいほど一緒です。
第1幕の「難解さと間延びした感じ」もそのままだし,第2幕の「前半とは打って変わってのすばらしい盛り上がりもそのまま。
今回の公演では前半の理解しにくさを少しでも分かりやすくいじってくるかな,と言う期待が僕にもありました。しかし,(裏話は知りませんが,)たとえ何らかの要請があって今回の夜会が急遽開演決定したとすれば,開演までの打ち合わせに始まりリハーサルまで考えると,脚本を細かく修正していくのは時間的には無理な話でしょう。
その部分を更に洗練できれば,さらにいいものが出来るんじゃないか,と正直に思います。
その一方,同じ内容を何度も見たおかげで,だんだんと彼女の言いたい(であろう)ことが分かってきたことも事実でして…このかみ砕く経過って言うのもなかなか味わい深いんですよね。
中島みゆき扮する「暦売り」は言わば「狂言回し」役。
転生した安寿そして厨子王,転生して忘れてしまった「約束」,しかし忘れられぬ「罪の意識」を背負って生きてゆく。
前半では縁切り寺の尼寺での出来事。ある者は炎の中へ進み,またある者は水の中へ身を投じることで,現世を断ち切り,来世へと旅立とうとする。しかし『百九番目の除夜の鐘』が鳴り止まず,「涙の輪廻」を繰り返しまごついてしまう。
後半ではさらに時代が下がり水族館が舞台になるも,前世と同じように「涙の輪廻」を繰り返し迷っている彼ら。そのうちに彼らの「罪の意識」が何であるか,徐々に思い出してゆく。
そして彼らの母も,子供をいとも簡単にさらわれてしまったことを悔やみ,そして自分を責めながら,後悔を繰り返してゆく。
そんな「守るに守れぬ約束」や「後悔」により断ち切れなかった「涙の輪廻」も『赦され河を渡る』でようやく断ち切られ,彼らは救われてゆく。
そんな感じではなかったか,と個人的に思います。
また,「S席2万円,A席1万8000円」という価格も話題になったようです。
たしかに歌舞伎公演などに比べても高い部類ですし,この景気動向ではなかなかポンと出せる金額ではありませんよね。先般の記事に書いたとおり,チケットの売れ行きが今年は鈍かったのも確かです。
ただ,音楽を含めた芸術って言うのは,高くても「鑑賞したい」という人がいれば成立してしまうもの。今回の夜会,僕が観に行ったのは平日にもかかわらず満席でした。高くても「観たい」って人が多いってことですよね。
僕ですか? 2万円の価値はあったと思いますよ。事実ラストは今回の夜会でも感動のあまり目が潤んでましたから。僕にとっては十分価値のある公演でした。
ただ,一般受けはしないだろうなって思いましたね。理由はやっぱり「理解に時間がかかる」ってことかな。
ちなみにEくんは面白いこと言ってました。前半2000円,後半1万8000円だって。
前半は舞台設定が難解で,彼女の思いが充分に反映されているとは言えず,自分のやりたいようにやってるから,後半は「有機体は過去を食らふ」以後,舞台の転換が早くなり,素晴らしい曲が多いことが理由のようです。
ところで,夜会批判の中で「金返せ」とか言ってる人がいますけど,中島みゆきに限らず,芸術の価値なんて突き詰めれば「自分が好きかキライか」って話。
気に入らないのも批判するのも結構だけど,だったら今後は行かなければ良かろうに。それだって作者に対す類立派な抗議なんだから。それなのに「金返せ」なんて現金なこと言ってると,人として底が浅いことがばれちゃいますよね(笑)
2010-01-01 追記
Eくんに言わせると,ライブや芝居が面白くなければ,その場で席を立って帰るのが一番の
抗議になるそうです。途中退席して『金返せ』なら抗議としては成り立つんではないかな,とのこと。
確かに,劇の途中でどんどんお客さんが帰ってしまうような舞台やライブなら,出演者も真剣に何が悪いか考えるでしょうね。

