2008年08月20日

大野病院事件:無罪判決

ゲイブログと言うこともあり普段はあまり医療ネタは扱わないのですが,このニュースだけはぜひとも取り上げたいと思います。


全国の多数の医師が注目していた「大野病院事件」の判決が今日,言い渡されました。

「大野病院事件」と言ってもおわかりにならない方もいるでしょう。簡単にまとめると,

「2004年12月17日に福島県立大野病院で帝王切開中の出血による産婦死亡に関し,2006年2月18日に同病院産婦人科の医師が業務上過失致死,医師法違反の逮捕・勾留・起訴された刑事事件」です。Wikipediaでの簡単なまとめはこちらです→リンク

判決は無罪。

今回の判決の判決如何では,今後の日本の医療崩壊が加速する可能性もあっただけに,ひとまず「妥当な判決」が出たことに安堵しました。ただし,検察が控訴しないとも限りませんが。


この事件の産婦さんは前置胎盤に癒着胎盤を合併したきわめて稀なケース。そのようなケースに対し,担当医はできうる限りの処置を尽くしてたにもかかわらず,残念ながら救命できなかったというのがわれわれ医療者の大多数の意見です。


この事件は逮捕直後から日本産婦人科学会など多くの医師たちが抗議の声を上げました。
なぜなら,この事件の一番の問題は
「相応の技量を持った医師の正当な診療行為によって患者さんを救命できなかった場合,医師個人の刑事責任が発生する」
ということ。
すなわち「(医学的に正当な)診療行為の不幸な結果だけを判断材料として訴追されるのであれば,世の中のほとんどの医師は犯罪者として逮捕・起訴される」こととなってしまいます。


この事件により,全国の産婦人科,とくに1〜2人など少人数の産婦人科医しかいなかった病院から産婦人科医の撤退が相次ぎ(前に勤めていた公立病院でもそうでした),特に地方において産科医療の崩壊を招いたことも忘れてはなりません。

奈良の産婦受け入れ困難事件(一般には「たらい回し」と呼ばれていますが)もこの大野病院事件の影響とも言えます。起こるべくして起こったことです。

逮捕から今日までの2年半あまりの時間,この間に失ってしまったものはあまりにも大きいです。

医療行為は注射ひとつとっても100%安全なものではありません。
われわれも日々努力,精進をしつつ患者さんに接し,治療を吟味しつつ臨機応変に対処しているのです。それでも予想外のことが起きたり,突発的な出来事があったりして,結果的に救命できないこともある,後遺症が残ることもある。それは医師個人の技量だけではなく,医療の限界です。

そのことはぜひ解っていただきたいと思います。


この事件の話題になると「亡くなった産婦さんや遺族感情を理解していない」
という批判を受けることがありますが,それはお門違いです。

あくまで「医療行為の結果論だけをよりどころにする,警察権力の医療現場への不当な介入」に対し非難の声を上げているのです。
亡くなった方や遺族の方々に対し非難する意図は全くありません。(逆にご遺族の方々がこの産婦人科医を強烈に非難していることが残念でなりません)


医師である以上,携わった患者さんを助けたい,良くしてあげたい,苦痛をとってあげたい…という気持ちは当然ながら持っています。逆に言えば,そういう気持ちのない人には臨床の現場にはふさわしくないとさえ思います。
でも医学や医療は万全なものではなく,どう手を尽くしても残念な結果になってしまう…。
僕も内科医として10数年,これまで手を尽くしたものの,残念な結果になってしまったことはひとつやふたつではありません。そんな時はやはりとても残念に思うし,正直ひどく落ち込むときだってあります。とくに僕を慕ってくださった患者さんであればなおのこと…死亡宣告をしながら目が潤んでしまったことだってあります。臨床医というのは,そういう苦い経験がもととなり,さらなる精進を重ねてゆくものなのです。


現在厚生労働省が中心となって,「医療安全調査委員会」を設立する動きが出ています。しかしそれはあくまで「原因の究明と再発防止」が主眼であって「医療者個人の責任追及」の場になってはならないと思います。現に船舶事故の「海難審判」や航空機や鉄道事故の「鉄道・航空機事故調査委員会」は「原因究明と再発防止の機関」です。

この議論の行方にも目が離せません。





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posted by うぱっぴ at 23:09| Comment(4) | TrackBack(0) | 時事ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初コメントです。
 冷静に考えれば、真っ当な医療行為の結果として、今回のような事態に陥ったわけですよね。それなのにも関わらず、警察がいきなり首突っ込んでくるのはおかしいと、私は思いました。
 ここで有罪なんか出たら、ますます産科医いなくなってしまいそうなんで、心配でしたが、ほっとしました。
 亡くなられた妊婦の方にはご冥福をお祈りするしかないと思います……。安らかに。
Posted by 凍鬼 at 2008年08月21日 16:40
>凍鬼さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
お返事が遅くなってすみません。

まさに凍鬼さんがおっしゃるとおりです。

判決後の新聞の論調は,相変わらず「遺族の感情が〜」となっていますが,今回はあくまで「刑事事件」なんですよね。その点をごちゃ混ぜで論議しないで欲しいものです。

判決後に警察庁長官が異例のコメントを発表したところを見ると,警察内部でもこの事件の逮捕・起訴は問題視されてたんではないでしょうか。
Posted by うぱっぴ at 2008年08月23日 14:24
どうもご無沙汰しております。
マスゴミの論調はどーにもダメダメですね。
医療事故調も役人仕事です。
国民の医療不信というけれど、実は、医療者の厚労省不信の方が100倍くらい大きいのではないかと思います。が、当の厚労省は全くそのあたりに気づいていないというのが私の所感。

まともに死にたきゃ金を出せ。さもなきゃ貧民野垂れ死にっていうアメリカ式医療にするのか、面倒はきっちり見てやるから、税金でまかなえるだけの医療で我慢しろ、消費税は20%っていうヨーロッパ式にするのか、大体どっちにするのか言わないで、ぜーんぶ現場に押しつけて、金がない金がないと騒いでるだけのバカ役所です。金がない原因は社保庁(=厚労省下部組織)のバブル崩壊寸前にはじめたド下手財テクのツケで、国民が命削ってツケを埋めさせられているというのに、マスゴミはまったくそういうことを言わない。ホント、この国は腐ってますな。

大野病院事件の遺族の方(亡くなった妊婦さんとお父さん)のNHKでのコメントですが、「医療を絶対的に信頼していた」と言ってました。そりゃ、死んでしまった結果は気の毒としか言いようがありませんが、これで医者を逆恨みするのだったらお門違いも甚だしく、妊娠という命の危険があるような行為をさせた旦那を訴えるのが筋ってモノだとおもいますし、結婚を許した自分を責めればいいという話です。

まあ、今の自分で何もしないくせに権利だけいう無責任な日本人の姿勢では、いずれアメリカ様迎合政治の下、「中の上」以下は「貧乏して野垂れ死に」にならざるを得ないと思いますね。




Posted by をたく at 2008年08月28日 20:11
>をたくさん
今回の裁判を通して,日本の医療の持つさまざまな問題が一気に表面化したことだけは間違いないと思います。

残念なことに未だにマスコミは「勧善懲悪」の延長で「医療者=悪」というレッテル張りから抜け出ず,今回の裁判の論調を見ても,感情論で議論をすり替えている論調も見受けられますし。
医療不信・医療崩壊の一因に自分たちが加担していることもだんまりを決め込んでいるようにしか見えません。

国民の側も医療を含めた日本の社会保障について真剣に議論することを避け,マスコミの論調である,医療者対患者,医療者対厚労省など,ただただ対立の図式を傍観してきたツケが回ってきたと言うことでしょう。

自分が病気になったり障害を持たない限りはお世話になる機会もないので,若い世代を中心に関心が薄いのは仕方のないことかも知れませんが…。

逆に,われわれ医療者も積極的に意見を発信してこなかった店は反省すべきところでしょう。

今後はこのブログでも医療ネタは時々扱うつもりです。やっぱり,現状を知ってもらうことが,理解への早道だと思いますから。
Posted by うぱっぴ at 2008年09月01日 00:52
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